杉山朗子先生を偲んで
伊東祐郎(東京外国語大学教授)
杉山朗子先生のこれまでのご尽力に対して心から尊敬と感謝の気持ちを表し、謹んで先生のご冥福をお祈り申し上げます。
私が杉山先生とお会いしたのは、2011年秋でした。国際教養大学専門職大学院の一科目を集中講義で担当することになり、毎週末の金曜日に東京を発って翌土曜日に90分の講義を3コマ担当し、最終便で帰京するという週末客員として毎学期10回お世話になっておりました。本来であれば週末はゆっくりと休養されたいところでいらしたでしょうが、私の出講を気にかけてくださり、その間に何度か昼食や夕食をご一緒する機会があり、次第に杉山先生のお人柄に触れることになりました。
私が週一回の秋田出張を楽しみにしていたのは、国際教養大学専門職大学院のカリキュラムが充実しており、熱心な大学院生への教育がとてもやり甲斐のあるものだったからです。国境を越えて学生が移動するグローバル社会において、今日、世界各国では、高度人材の育成、そのための教育内容や制度の整備、充実化が図られています。これからの時代に求められる日本語教育の役割や使命はこれまでとは格段に拡大していくと考えられます。今を生きる日本語教師には、従来からの専門性に加え、資質や力量の変容が求められる時代に突入したと言ってよいでしょう。国際教養大学専門職大学院はこのような社会のニーズに応え、また優秀な人材を輩出されているところに強みや特色があると確信しています。杉山先生は大学院の創設からかかわられ、これまでに優秀な日本語教師の育成と送り出しに情熱を傾けられ、専門職大学院の基盤を創り上げてこられました。客員教員として大学院生と接する中で杉山先生からの影響を受けて新たな人材が育っていることをたびたび実感しました。
杉山先生はいつお会いしても明るく、笑顔で接してくださった本当にやさしい方でした。杉山先生がいらっしゃるとその場の雰囲気が自然に和み、いつも客員の私を気遣ってくださっていたので秋田滞在中は居心地のよいものでした。もっと共有できる時間やお話しできる機会があれば、杉山先生の日本語教育に対する思いや将来の理想についてうかがうことができたかもしれません。今はこれまでに積み上げてこられた大学院授業の礎の上に、私たちは、また新たな歴史を切り拓いていきたいと願っています。
教育のグローバル化や情報化は、日本語教師の教育の質に対する説明責任、そして、情報通信技術の活用力と指導力を問うています。これからの日本語教師の資質や実践力の向上そして養成においては、杉山先生がなさろうとしていた実践を引き継いで挑戦していきたいと考えています。国際教養大学から巣立っていくすべての日本語教師が、激動の時代に対応できる自己開発力を兼ね備え、取り組んでいくことによって杉山先生は喜ばれることでしょう。
やさしく温かく接してくださった杉山先生が亡くられたのは、たいへん寂しいです。杉山先生のご厚情とご親切に深く感謝申し上げるとともに、安らかなるご永眠を心よりお祈り申し上げます。
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